この記事を書いた人:光栄水産(兵庫県赤穂市・坂越湾で牡蠣を育て、加工まで行う生産者)
食卓に並ぶ大きな牡蠣も、はじめは目に見えないほど小さな赤ちゃんでした。では、養殖の牡蠣は何から育て始めるのでしょう。野菜に「種」や「苗」があるように、牡蠣の養殖にも「種」があります。
結論からいうと、牡蠣の種苗(しゅびょう)とは、養殖のもとになる牡蠣の子ども(稚貝)のことです。海を漂っていた牡蠣の赤ちゃんが、貝殻などにくっついて育ち始めたものを、生産者は「種」や「種苗」と呼び、海で大きく育てていきます。
この記事では、牡蠣の赤ちゃんが種苗になるまでの流れと、種苗の主な形、坂越(さこし)湾で光栄水産がどのように一粒の牡蠣を育てているかを紹介します。
- 牡蠣の種苗とは?
- 牡蠣の赤ちゃんの一生
- 種苗の主な2つの形
- 光栄水産の種苗と育て方
- 種苗から食卓までの流れ
- よくある質問
牡蠣の種苗とは?
「種苗」は、農業や水産業で使われる言葉で、育てるもとになる種や苗のことです。水産業では、養殖のもとになる魚や貝の子どもを指します。
牡蠣の場合は、貝殻などに付いて育ち始めた小さな牡蠣が種苗にあたります。「種(たね)」「種牡蠣(たねがき)」と呼ばれることもあります。牡蠣の養殖は、この小さな種苗を海に入れて、大きく育てるところから始まります。
牡蠣の赤ちゃんの一生
牡蠣がどのように生まれ、種苗になるのか、一般的な流れを見てみましょう。
| 段階 | ようす |
|---|---|
| 1. 産卵 | 水温が上がる夏ごろ、牡蠣は海の中に卵や精子を放出する |
| 2. 幼生(ようせい) | 生まれた赤ちゃんは、目に見えないほど小さく、しばらくのあいだ海の中を漂って過ごす |
| 3. 付着 | 育った幼生は、岩や貝殻など、くっつく場所を探して付着する |
| 4. 稚貝(ちがい) | 一度くっつくと、その場所から動かずに殻をつくって育っていく |
ポイントは、牡蠣は一度くっつくと、一生その場所から動かないということ。だからこそ、どこで、どんな形で育ち始めるかが、その後の育ち方を左右します。牡蠣の性別のふしぎについては、牡蠣にオスとメスはある?性が変わると言われる牡蠣のふしぎでも紹介しています。
種苗の主な2つの形
牡蠣の種苗は、大きく分けて次の2つの形があります。
1. 貝殻にたくさん付けた種苗
日本の牡蠣養殖で広く行われているのが、ホタテの貝殻などを海につるし、そこに牡蠣の幼生をたくさん付着させる方法です。種の付いた貝殻をロープに通し、いかだからつるして育てます(垂下式)。一枚の貝殻からいくつもの牡蠣が育つので、牡蠣はかたまりになって大きくなります。
2. 一粒ずつ分かれた種苗(シングルシード)
もうひとつが、一つの殻に一粒の幼生を付ける方法です。シングルシードと呼ばれ、最初から一粒ずつ分かれているのが特徴です。まわりの牡蠣とくっつかずに育つため、かごに入れて育てるバスケット養殖に使われます。
| 貝殻にたくさん付けた種苗 | 一粒ずつ分かれた種苗 | |
|---|---|---|
| 育て方 | ロープでいかだからつるす | 専用のかご(バスケット)に入れる |
| 育つ形 | いくつもの牡蠣がかたまりで | 一粒ずつ、ばらばらに |
| 世話 | いかだとロープの管理が中心 | かごの入れ替えなどをこまめに |
光栄水産の種苗と育て方
兵庫県赤穂市の坂越湾で牡蠣を育てる光栄水産では、いかだからつるす方法とバスケット養殖の両方で牡蠣を育てています。バスケット養殖では、一つの殻に一粒の幼生を付けたシングルシードを使い、約4mmの大きさから育て始めます。小指の爪よりも小さな粒が、海の中で少しずつ大きくなっていきます。
波で転がしながら育てる
専用のバスケットに入れた牡蠣は、波に揺られてかごの中で転がります。牡蠣同士がぶつかり合う刺激で、旨みが凝縮し、貝柱が太くなると私たちは考えています。
成長に合わせて、かごを入れ替える
牡蠣は育つにつれて大きくなり、同じかごのままでは窮屈になります。そこで成長に合わせてバスケットを何度も入れ替え、海水温や潮のようすを見て漁場を移動しながら育てます。バスケット養殖の夏の仕事は、バスケット養殖とは?牡蠣を育てる夏の海と生産者の仕事で詳しく紹介しています。
種苗から食卓までの流れ
坂越湾の殻付き牡蠣が、種苗から食卓に届くまでの流れは、おおよそ次のとおりです。
- 種苗を海へ:小さな種苗をバスケットに入れて、海で育て始める
- 海で育てる:かごの入れ替えや漁場の移動をくり返しながら、大きく育てる
- 選別と活かし込み:形の整ったものを選び、付着物を落として、もう一度海へ。ひと潮(約14日)以上、海で身を太らせる
- 水揚げ・洗浄・浄化:水揚げした牡蠣を洗い、紫外線殺菌海水で24時間以上浄化する
- 出荷:梱包して出荷する。冷凍品に加工するものもある
牡蠣が1年でどれくらい大きくなるのかは、牡蠣は1年でここまで育つ。知られざる成長の秘密でも紹介しています。
よくある質問
Q. 牡蠣にえさはあげているのですか?
A. 牡蠣は、海水を取り込んで、その中のプランクトンなどを食べて育ちます。人がえさを与えるのではなく、海の力で育つため、どんな海で育つかが大切になります。坂越湾の海については、山の日の由来と、山と海のつながり|千種川と坂越湾の牡蠣で紹介しています。
Q. 種苗はどうやって手に入れるのですか?
A. 一般には、海に貝殻をつるして天然の幼生を付けて採る方法と、種苗をつくる施設で育てられたものを仕入れる方法があります。地域や養殖のやり方によって使い分けられています。
Q. 「種苗」と「稚貝」は同じ意味ですか?
A. 稚貝は「貝の子ども」そのものを指す言葉で、種苗は「養殖のもとにする子ども」という意味で使われます。牡蠣の養殖では、ほぼ同じものを指すことが多い言葉です。
まとめ
- 牡蠣の種苗とは、養殖のもとになる牡蠣の子ども(稚貝)のこと
- 牡蠣の赤ちゃんは海を漂ったあと、貝殻などに付着し、そこから動かずに育つ
- 種苗には、貝殻にたくさん付けるものと、一つの殻に一粒ずつ付けるものがある
- 光栄水産のバスケット養殖では、約4mmの一粒の種苗から、かごを入れ替えながら育てている
次に牡蠣を食べるとき、その一粒が小さな種から海で育ってきたことを、少しだけ思い出してもらえたらうれしいです。
出典:牡蠣の一生・種苗の一般的な説明は、水産分野の一般的な解説による。光栄水産の養殖方法・工程(シングルシード、バスケット養殖、活かし込み、浄化)は光栄水産の会社資料による。冷凍むき牡蠣の解凍方法・保存方法・期限は商品表示に従ってください。
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