広島牡蠣と他産地の違い〜坂越湾・瀬戸内海が育む味の理由

「広島牡蠣」が日本一の理由

牡蠣といえば、真っ先に「広島」を思い浮かべる方が多いでしょう。

それもそのはず。 広島県は、全国の牡蠣生産量の約6割を占める圧倒的な日本一の産地です。

令和4年のデータでは、全国の牡蠣養殖量は約16万5,590トン。 そのうち広島県が9万6,816トン(58.5%)を生産しています。

2位の宮城県が約2万5,000トン(15.5%)、3位の岡山県が約1万5,000トン(8.9%)ですから、広島県の生産量がいかに突出しているかがわかります。

でも、なぜ広島なのでしょうか。 そして、同じ瀬戸内海の岡山県赤穂市・坂越湾で育つ光栄水産の牡蠣には、どんな特長があるのでしょうか。

今回は、産地による牡蠣の違いと、坂越湾が育む味の秘密を解説します。

牡蠣の産地、それぞれの特徴

まずは、日本の代表的な牡蠣産地とその特長を見ていきましょう。

広島県(生産量全国1位)

室町時代から400年以上の養殖の歴史を持ちます。 瀬戸内海の穏やかな海と、太田川から流れ込む栄養素が牡蠣の成長を促進。

身が大きく、コクのある濃厚な味わいが特長です。

ブランド牡蠣は「広島かき」「かき小町」など。

宮城県(生産量全国2位)

三陸のリアス式海岸が生み出す豊かな漁場。 外洋に近く、ミネラル豊富な海水で育ちます。

身が引き締まり、さっぱりとした味わい。

ブランド牡蠣は「松島かき」「志津川かき」など。

岡山県(生産量全国3位)

瀬戸内海と高梁川、吉井川、旭川の3つの一級河川の恩恵を受けます。 一年牡蠣(1年で出荷できるサイズに成長)が主流。

濃厚でクリーミー、ぷりぷりとした食感が特長です。

ブランド牡蠣は「寄島かき」「日生かき」など。

北海道

海水温の低い北の海で、じっくり時間をかけて育ちます。 夏でもおいしい牡蠣として、1年中出荷されています。

栄養豊富で、うま味がしっかり。

ブランド牡蠣は「厚岸(あっけし)のカキえもん」「寿都(すっつ)の寿かき」など。

産地による味の違いを決める3つの要素

牡蠣の味は、産地によって大きく変わります。 その違いを生み出すのが、以下の3つの要素です。

①海水の栄養バランス

牡蠣は1日に約200リットルもの海水を濾過して、植物プランクトンを食べます。

この植物プランクトンが育つためには、窒素、リン、ケイ素といった栄養塩が必要です。

栄養が豊富な海では、牡蠣は早く成長し、うま味も濃くなります。 逆に、栄養が少ない海では、成長に時間がかかりますが、身が引き締まります。

瀬戸内海の場合、かつては「富栄養化」が深刻な問題でした。 1970年代には赤潮が頻発し、1972年には養殖ハマチ1,400万尾が斃死する大被害も発生。

その後、環境保全の取り組みが進み、水質は大幅に改善されました。 透明度も上がり、きれいな海になりました。

しかし近年、今度は「貧栄養化」が新たな課題として浮上しています。

海がきれいになりすぎたことで、植物プランクトンを育てる栄養塩が減少。 播磨灘における窒素濃度は、1980年代の4割程度にまで減少しています。

2017年には広島湾全体で牡蠣の幼生が必要数の3割しか取れないという事態も発生しました。

現在では、兵庫県や岡山県、香川県などで「栄養塩類管理制度」が導入され、下水処理場での季節別管理運転が行われています。 海の環境を適切にコントロールする試みが進んでいるのです。

②潮の流れと干満差

潮の流れは、牡蠣の養殖において極めて重要です。

潮が運んでくるのは、植物プランクトンだけではありません。 酸素も一緒に運ばれ、牡蠣が健康に育つ環境を作ります。

潮の流れが速い場所ほど、豊富な餌が牡蠣のもとに届きます。

また、干満差を利用した「抑制」という技術も重要です。

満潮時には海水に浸かり餌を食べ、干潮時には空気にさらされる。 このサイクルが、牡蠣を鍛え、環境変化に強い個体に育てます。

弱い牡蠣は淘汰され、強い牡蠣だけが生き残る。 結果として、質の高い牡蠣が生まれるのです。

瀬戸内海は、遠浅で干満差が大きいため、この抑制養殖に適しています。

③河川からの栄養供給

「山は海の恋人」という言葉があります。

山の腐葉土に含まれる栄養分が川に溶け込み、海に流れ込む。 この山→川→海の連携が、豊かな海を作ります。

特に重要なのが、河川が運んでくる鉄分やミネラルです。 これらが植物プランクトンの成長を促し、結果的に牡蠣を育てます。

また、河川の真水が海に流れ込むことで、塩分濃度が下がります。 適度な塩分濃度の低下は、植物プランクトンの増殖を促進します。

広島なら太田川、岡山なら高梁川。 それぞれの河川が、その地域の牡蠣の味を決める重要な役割を果たしているのです。

坂越湾が育む「特別な牡蠣」の理由

では、光栄水産の牡蠣が育つ坂越湾には、どんな特徴があるのでしょうか。

生島の存在という奇跡

坂越湾には、「生島(いきしま)」と呼ばれる小さな島が浮かんでいます。

この島は、古くから神聖な場所とされ、人の立ち入りが禁じられてきました。 天然記念物に指定された常緑樹林が、手つかずのまま残っています。

人の手が入らない原生林からは、豊かな栄養分が海に供給されます。 過度に富栄養化していない、バランスの取れた栄養。

これが、坂越湾の海を特別なものにしています。

千種川という清流

日本名水百選にも認定されている千種川が、茶臼山の麓から坂越湾に注ぎ込みます。

この川が運んでくるのは、山のミネラルと清らかな水。 清流ならではの、澄んだ栄養分が、牡蠣の餌となる良質な植物プランクトンを育てます。

瀬戸内海でも特に穏やかな海流

坂越湾は、瀬戸内海の中でも波が少なく、特に穏やかな海域です。

穏やかすぎると餌が届きにくくなりますが、適度な潮の流れはあります。 この絶妙なバランスが、牡蠣をストレスなく育てる環境を作っています。

3つが重なる奇跡の環境

生島の原生林、千種川の清流、瀬戸内海の穏やかさ。

この3つが重なる場所は、日本中どこを探してもそう多くありません。

光栄水産の牡蠣が「気になる臭いや苦味のない、マイルドで爽やかな風味」を持つのは、この環境があってこそなのです。

「一年牡蠣」という選択

坂越湾の牡蠣は、別名「一年牡蠣」と呼ばれます。

通常、牡蠣の養殖は2〜3年かけて育てるのが一般的。 しかし、坂越湾の豊かな栄養環境では、わずか1年で出荷できるサイズに成長します。

一年牡蠣のメリット

若い牡蠣ならではの、ぷりぷりとした食感。 身に栄養をたっぷり溜め込んだ、濃厚な味わい。 年数をかけた牡蠣より、雑味や臭みが少ない。

光栄水産では、この一年牡蠣にこだわることで、クリーミーで甘みのある牡蠣を実現しています。

なぜ1年で育つのか

生島と千種川が生み出す豊富な植物プランクトン。 瀬戸内海の穏やかな環境。 そして、後述するシングルシード&バスケット養殖。

これらが組み合わさることで、短期間でも質の高い牡蠣が育つのです。

シングルシード&バスケット養殖の革新

産地の環境だけでなく、養殖方法も牡蠣の味を左右します。

光栄水産が採用しているのが「シングルシード&バスケット養殖」です。

従来の養殖方法の課題

従来の養殖では、複数の牡蠣がくっついた状態で縦に吊るして育てます。 これには、いくつかの課題がありました。

密集するため、一粒一粒に届く日光と栄養が不均一になる。 汚れや老廃物が溜まりやすく、臭みの原因になる。 殻の形がいびつになりやすい。

シングルシードとは

牡蠣の稚貝を一粒ずつ分離して育てる方法です。

一粒一粒が独立しているため、太陽光が均等に当たり、海水も十分に行き渡ります。 結果として、殻の形が整い、身がふっくらと育ちます。

バスケット養殖とは

専用のバスケット(籠)に牡蠣を入れ、波で転がしながら育てる方法です。

波の力で自然に転がることで、牡蠣の殻が均一に成長します。 また、常に海水が循環するため、清潔な状態を保てます。

牡蠣が成長してサイズが大きくなるたびに、バスケットを交換。 この手間暇が、質の高い牡蠣を生み出します。

この方法の効果

一粒一粒に栄養が行き渡り、身がふっくら。 汚れが溜まりにくく、臭みが少ない。 殻の形が美しく、見た目も良い。 身がしっかりしているため、加熱しても縮みにくい。

光栄水産では、8年の歳月をかけてこの養殖方法を確立。 その結果、夏でもおいしい真牡蠣「赤穂クリスタルブラン」の開発に成功しました。

広島牡蠣と坂越牡蠣、どう違う?

では、広島の牡蠣と坂越の牡蠣、具体的にどう違うのでしょうか。

身の大きさ

広島牡蠣は、2〜3年かけて育てるため、身が大きく育ちます。 坂越の一年牡蠣は、やや小ぶりですが、その分若々しいぷりぷり感があります。

味わい

広島牡蠣は、コクのある濃厚な味わい。 坂越牡蠣は、クリーミーでマイルド、爽やかな風味。

臭み

広島牡蠣も品質管理が徹底されていますが、生産量が多いため、個体差があることも。 坂越牡蠣は、清浄な環境とシングルシード養殖により、臭みが非常に少ないのが特長です。

どちらが良いということではない

どちらも素晴らしい牡蠣です。

ただ、好みが分かれるのは確かです。

濃厚でしっかりとした味わいが好きなら広島。 繊細でクリーミーな味わいが好きなら坂越。

また、牡蠣が苦手な方や初めて食べる方には、臭みの少ない坂越牡蠣が食べやすいかもしれません。

他産地との比較

坂越牡蠣と他産地の牡蠣を比較してみましょう。

宮城県(三陸)の牡蠣と比べて

三陸の牡蠣は、外洋に近く、波が荒い環境で育ちます。 そのため、身が引き締まり、ミネラル感が強いのが特長。

坂越牡蠣は、穏やかな内海で育つため、よりクリーミーでやわらかい食感です。

北海道の牡蠣と比べて

北海道の牡蠣は、低水温でゆっくり育つため、うま味が凝縮されています。 夏でもおいしいのが強みです。

坂越牡蠣の「赤穂クリスタルブラン」も夏の真牡蠣ですが、より温暖な海で育つため、身の成長が早く、若々しい食感があります。

岡山県内の他地域と比べて

同じ岡山県内でも、寄島(高梁川の河口)と坂越(千種川の河口)では、河川の特性が異なります。

どちらも濃厚でクリーミーですが、坂越は清流・千種川の影響で、より爽やかな風味があると言われます。

産地の違いを楽しむ

牡蠣は、ワインのように「テロワール(土地の個性)」が味に表れる食材です。

同じ品種でも、育った海の環境、河川の水質、養殖方法によって、まったく違う味わいになります。

だからこそ、産地食べ比べは面白いのです。

おすすめの楽しみ方

異なる産地の牡蠣を取り寄せて、食べ比べてみる。 生牡蠣で食べれば、その違いがより明確にわかります。

広島の濃厚さ、三陸のミネラル感、坂越のクリーミーさ。 それぞれの個性を感じながら味わうのは、贅沢な体験です。

まとめ

広島が日本一の産地であることは間違いありません。 400年の歴史と圧倒的な生産量、そして確かな品質。

しかし、日本には他にも素晴らしい牡蠣の産地があります。

光栄水産の牡蠣が育つ坂越湾は、生島の原生林、千種川の清流、瀬戸内海の穏やかさという3つの奇跡が重なる場所。

さらに、シングルシード&バスケット養殖という革新的な方法で、臭みが少なく、クリーミーな牡蠣を実現しています。

一年牡蠣ならではの若々しいぷりぷり感と、濃厚な甘み。

これは、坂越でしか味わえない特別な牡蠣です。

ぜひ一度、産地の違いを体験してみてください。 牡蠣の奥深さに、きっと驚くはずです。